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2017.02.20
特集

卒業後の活動「田中 元暁さん」

医療法人社団八千代会介護付き有料老人ホームメリィハウス西風新都にて音楽療法を実施。普段のセッションはヴァイオリニストの妻と一緒にヴァイオリンを加えて実施しています。

食事の後の時間、おやつ前の時間での歌の時間。これを介護スタッフが行っていた部分に、我々が入り込み、音楽療法として効果を検証しながら形を整えていくという形で始まりました。

基本的な隊形や場所、セラピーそのものに慣れ親しんでいただくという、基本の基本部分から出発。
内容では季節の歌、童謡、懐メロ、クールダウンの基本のもののみに絞っての実践から始めてみました。

私たちの音楽にまずはしっかり触れていただき、その心地よさや豊かさを知っていただくことから始めながら、クライアントさんの様々な状況、スタッフの状況やこの療法をどう感じていただいているかの把握に始まりました。(療法前後の主任級スタッフとの懇談で、この部分を大切にし、自分たちがどう受け入られて行っているか、感触を確実に確かめることを大切にしました。そして少しずつ状況に合わせた、私たちが創るここならではの療法づくり・実践が始められました。)

「クライアントさんの様々な状況、スタッフの状況やこの療法をどう感じていただいてるかの把握」これはそう簡単ではありません。懸命に取り組んでいるその現場の時間と前後の打ち合わせで、しっかりつかみ取り、こちら側の展望を伝え、確実にそこに近づけるための要求や協議をしていくのは、時間的には短くとも、大変なエネルギーの投入でした。まして高齢者介護の現場に初めて足を踏み入れたのは事実、個々のクライアントさんの様々な反応や細かい様態のチェックは大変で、その中からきっちりその日の療法のポイントを見極め、今後への展望に繋げることは、まさに全勢力を使い果たすという感じでした。(それでもやはり、次第に終わって帰るときの充実感は何にもかえられぬものになりつつあります)施設側も作業療法士や理学療法士まで打ち合わせに参加するという、力の入りすぎる状況もありましたが、やりながら効果を確認しつつ少しずつというのは間違いのないことでした。

選曲と歌詞カードの工夫(歌詞カードを持ちやすく開きやすくするため、ビニールフォルダーに入れる)。
隊形やスタッフの動きを出来るだけ効率よくする工夫の提案。懐メロとクールダウンを必ず入れていく要請。クライアントさんからのリクエストの吸い取りをお願いするなど、毎回の打ち合わせがなんかかんかある状況が続きました。クライアントさんの普段の生活の中や療法に対する様々な驚くような反応を聴いたり、確かめることで、自分たちの実践の力を確認しつつ、将来への展望を常にはっきりした形にするよう努めました。

ひと月くらい経つと、療法の時間とその中身が大分定着してきました。クライアントさんも楽しみに待ってくださるのがよく分かるし、介護スタッフの皆さんも様々な工夫を重ね、情報交換し、工夫して音楽療法をどう捉え、どう自分たちのフロアーに位置づけ効果を上げるのか、そんな努力や工夫が伝わってくるようになってきました。二ヵ月目には隊形が出来上がり、大型歌詞の作成や提示も安定してきました。呼吸法や手遊び、体操、合奏・鑑賞に繋がる活動を徐々に入れていき、今、今後のしっかりとした療法の実施に繋げていける段階まで来たという処です。

展望としては、施設全体に関わってきますが、認知症の方を中心に据えて、音楽の演奏発表(イベント)を企画し作り上げていく中で、様々な効果を上げていくというものです。生理的・心理的効果は普段の療法で充分上げれますが、イベントへの活動は様々な社会的効果を生み出すと共に、クライアントの家族・親族との人間関係、さらには療法の目的の真髄とも言える、人間として豊かに生きる体験の創造として、数えきれないほどの効果を生むものと期待しています。認知症の方を中心に健常な高齢者に加え、介護や看護・医療のスタッフ、さらにこれらの方々の親族や知人までも巻き込むことで、大きな希望が膨らみます。そして心通じる音楽家の参画を得れば、その時響く音楽にはどんな素晴らしさが創られるものか、量りしれません。これらのイベントの企画・実践の中心になって活躍できるのが音楽療法士と考えます。今、施設側の各スタッフと共に、ここに展望の焦点を当てて、具体的取り組みを創ろうとしている処です。確かに大変なことで、簡単に物事が進むとはとうてい思えませんが、ここに向かって日々の療法を続けているというのが現状です。

ある日の療法の時間が終わったとき、あるクライアントさんがお話ししてくれました。「療法の時間とは別の「音楽の時間」が出来るのを楽しみにしています。(この「音楽療法の時間」は初回自由参加だったのですが、あまりにもたくさんの人が集まり、反響が大きすぎて、今しっかりとした実施をするために、施設の運営面から現在は準備中)認知症のこのフロアーでは平服のままの、いつも何かをして貰うだけの受け身の生活。でも音楽の時間があれば、ちょっと良い服を着て、化粧でもして参加し、自分が自分らしく、自分から参加し、創る活動が出来て、それだけが何よりの楽しみなのよ。」このときのお話が今でも忘れられません。その時間のために、何かと考え準備し、能動的にしっかりと生活されるその人のしっかりとした姿が目に浮かびました。そしてそのときの、認知とはとても思えないきりっとした笑顔が忘れられません。

もうひとつの印象深くのこったのは、何より介護スタッフが何につけ、音楽療法のお陰で、「介護の目指すもの」について深く考えたり、話しあったり、どんどん変わっていったという話です。私たちが初めてお試しで「歌の時間」にご一緒させていただき、療法がどんなものか見てもらった後、看護、介護、療法のスタッフたちが休日に自主的に集まり、この部分について研修をされたと聴きました。こんなスタッフや家族の思いも含めて、お互いが人間としてお互いを受け入れ協力し合い・喜び合える機会の創造に、その中心になれるのが音楽と思いました。普段の療法はもちろん、その部分でも皆さんのお役に立てるのが音楽療法士と思えば、喜びと勇気が湧いてきます。

この施設で何をして行くにしろ、学院での実習・認定試験、教科書で学び考えた事が常に自分たちの活動を支えてくれました。まさに療法の実践にしっかり寄り添って、常に最も大切なことを見失うことなくよりよい活動を示唆してくれる羅針盤と言えると思います。実践の中でこそ役立ち、尚も常に正しい方向性を照らし出してくれる学院の体験と教科書の素晴らしさを改めて噛み締める体験の日々です。