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2020.06.29
特集

音楽療法士〜資格取得後の奮闘記 第三十一回「全力で笑って回想」

第三十一回特別養護老人ホームすばるの音楽療法が終了しましたので、アセスメント・プログラム・記録等を報告させていただきます。

 

 

[アセスメント]

参加人数が全体で45名となり、うち2名は新規の初参加の方になります。
そのうち1名の女性は、当日の午前に入所をされていまして、その方からするとまだまだ馴染みのない風景になっていました。

そして、事前誘導のときに「ねぇちゃん!なぁ!ねぇちゃん!」と大きな声を出してスタッフに話しかけ「何するの!今から何するの!」と何度もいろいろなスタッフを呼んでは同じ質問をされている女性がいらっしゃいました。
(音楽療法の参加自体は約半年経過されています。)
後からスタッフ様から聞いた情報では、「最近何かをするときや誘導するときに非常に心配になってすぐに大声でスタッフを呼び、常に横に居てる状態でないとすぐにスタッフを呼ぶ」と教えていただけました。
この方は、寸前まで「ねぇちゃん!ねぇちゃん!」とスタッフを呼ばれていました。

 

 

[プログラム]

1.あいさつ
始まりの挨拶や季節の話を少し実施。
この挨拶をするとき、「皆様!こんにちは!」と言うと急に大きな拍手があり、それに合わせて「こんにちはー!」と声を出していただけました。
そして、アセスメントで書かせていただいた大声を出されていた女性の様子は急に大人しくなり、急に静かになり参加をされました。
このあとのプログラムでも、終始心配になる様子がなくなり、1時間しっかりと集中して参加をされました。

 

 

2.準備運動
今回は呼吸法として「風車」を使用しました。
一人一つ持ち、長く息を吐いて風車をしっかりと回していただけるように努めました。
中には、咳込む方もいらっしゃいましたが、その中でもどうしても風車を回したいという表情が伺え、しっかりと息を吐いていただきました。(スタッフ補助あり)
今回の風車は、約1年ぶりに使用しましたが、この一年間の中で利用者様が入れ替わることが多くあったり、もしくはショートステイの方が多くいらっしゃるということもある為、今回の使用に至りました。

そして、発声法も実施しました。
発声法では、今回はドレミファソラシドの音階を音をつけながら声に出す。もちろんお腹から一音一音しっかりと声に出していただき、
ドレミファソラシド→ドシラソファミレドと高い音低い音と声に出していただきました。
その後、ドシラソファミレドに合わせ「はにほへといろは」と音をつけながら声に出していただきました。
「では、反対からいきますよ!」と言うと「はろいと…………」と途中からわからなくなり皆様がごまかそうと声を出されました。それが可笑しくなり笑われる方が非常に多くいらっしゃいました。

 

 

3.季節の歌
『紅葉』を歌唱。歌唱後にも少し説明を加え、質疑応答も設けました。

→歌唱に関しては特に問題なく、皆様が大きな声を出されました。そして、歌唱後にした質疑応答では、「今年に入って紅葉は見られましたか?」と質問すると、この時期、地域ではまだ紅葉があまり見れないものになっていましたが、ある男性の方が手を挙げ「見ましたよ!」と大きな声で教えていただけました。
そして、「どこで見られましたか?」と質問を加えると「テレビで見ました!」と教えていただき、その場でフロアが一気に笑いが起こりました。
他にも「紅葉の名所はどこですか?」と聞くと、「○○!」「○○!」と多くの言葉が出ました。そして、さらに「紅葉だけではなく、イチョウやどんぐりなんかもこれからの季節ですよね」と話をすると「どんぐりころころ!」とある女性が手を挙げて答えていただけました。するとまた他の方がそれに刺激され「どんぐりころころどんぶりこ〜♩」と唄われました。さらにそれが他の方にも影響し、急遽「どんぐりころころ」の歌唱が始まりました。
歌詞もなく歌唱が始まり、そのまま2番までしっかりと思い出して歌唱ができました。
急遽のことでしたが、曲や質疑応答に刺激され思い出して歌唱するまで至りました。

 

 

4.手遊び歌
『夕日』を歌唱。その後同時に手遊びを実施しました。そして今回は手遊びに加え、暗唱も取り入れました。
→手遊びの内容は、
①1→2→3→指を引っ張って→手拍子
②①の指を親指から始め、さらに①の手遊びを反対から実施
というものになります。
歌唱は問題なく、①の手遊びも問題なく実施できていました。
②はなかなか苦戦しながらもいつも通り笑いながら最後まで懸命に取り組んでいただけました。
そして一通り歌唱、手遊びをした後に、「では皆様、今からこの曲を覚えていただいて、同時に手遊びをしていただこうかと思います。よろしいよ!と思う方は拍手をしてください!!」と促すとフロアは一切拍手が起こらず、セラピストが「あれ?」というとその様子が可笑しくなり再びフロアに一気に笑いが起こりました。
中には涙まで出して笑う方もいらっしゃいましたが、中には「しょうがないな!」と笑いながらも拍手していただける方もいらっしゃいました。
そして、いざ暗唱しながら手遊びをすると、ほとんどの方がしっかりと頭で曲を思い出して唄い、そして手遊びをしていただけました。

 

 

5.合奏
『証城寺の狸囃子』の曲に合わせ、合奏を実施。合奏の内容を事前に説明し、練習→本番と取り組みました。

→今回は曲が少し速いということがありましたが、結果から言うと非常にきれいに鳴らせており、きれいに止めることも出来ていました。
そして今回は前列の方々が唄われながらしっかりと楽器を鳴らす、という取り組みも見れました。
そして、半身麻痺のリクライニング式の車椅子の方も楽器を渡す時に手を伸ばして取られる姿が見れました。その方は普段ならスタッフが手に直接渡して握るまでしているのですが、今回は「自分から手を伸ばして楽器を取る」という手の可動領域が広がることが事前に確認できました。その方にはスタッフ様に補助をいただき「手を自分で上げて楽器を鳴らす」という個人的な目標もつくり、それにも取り組んでいただきました。

 

 

6.懐メロ
『誰か故郷を想わざる』・『赤城の子守唄』を歌唱。今回も歌唱前に「誰か故郷を想わざる」の昭和15年の時代背景を先に説明し、回想を十分にしていただいたあとに歌唱に入りました。

→昭和15年の時代背景を説明。
そのときに「ぜいたくは(?)だ」と穴埋め式に模造紙に書いていると、説明したときにほとんどの方が「敵だ!」と答えていただけたり、「隣組」というキーワードにも反応して隣同士で話し合う姿が確認できました。
そして昭和15年の話の中で、今回は「敵性語の変換」というものを取り入れました。
(敵性語とは、同時敵国の言葉(一般的には英語)を使わず、その言葉を日本語に変換して使用する。というもの)
模造紙には、「ディックミネ→三根耕一」「ロンドン→倫敦」「ドレミファソラシド→はにほへといろは」などを書いており、そのあと少ししたクイズを出しました。
「紐育」と書いた紙を見せ、「これは何と読みますか?」と聞くと、すぐにいろいろなところから「ニューヨーク!」と答えていただき、他にも「桑港」と見せると「サンフランシスコ!」と答えていただけました。すぐにこたえていただける姿を見られスタッフ様方はびっくりされていました。
そして「辛味入汁掛飯」と見せるとさすがに多くの方は「なんだろ?」「みそ汁のこと?」と悩んでおられましたが、その中で後列の方が小さい声で「カレーライス」と答えていただき、皆様がびっくりされたのと同時に「そんな字で書くの?」と笑われていた方もいらっしゃいました。
敵性語の変換は、非常によくできており答えていただける方が多くいらっしゃいました。
そして、そのまま続いて時代背景にて当時の流行歌を説明。
「隣組」「蘇州夜曲」「目ン無い千鳥」「月月火水木金金」と説明をすると、途中で男性が「この隣組っていう曲は肩叩きのときに替え歌で使うの知ってるか?」と言われ「教えてください!」と言うと「とんとんとんからりんの肩叩き〜♪右手は拳で左肩、左も同じで右の肩〜♪」と幼少期に唄っていた替え歌を思い出し唄いながら自ら肩叩きをされました。
今回は時代背景での説明を十分取りました。
そして時代背景の最後に
『???』霧島昇と書いてるのをみると、前列の方々が「この時代は誰か故郷を想わざるやね。」と自信満々に答えていただけました。
しっかりと回想ができ、当時のことが振り返り曲まで思い出せました。

そして『誰か故郷を想わざる』を歌唱。
さらに、戦前をもっと深く振り返るために『赤城の子守唄』を歌唱しました。
赤城の子守唄では、「誰が唄っていましたか?」という質問にすぐに「東海林太郎!」とも答えていただけました。
しっかりと2曲とも歌唱ができており、回想もできていました。
回想が十分にできていたこともあり、続いて「戦前の曲」というつながりで当時のレコード曲を聴いていただきました。
それは『二人は若い』になり、曲をかけるとイントロの時点で「あなたと呼べば〜♪」と唄える方や「嬉しいー!」と拍手をしながら聴かれる方といらっしゃいました。
そして曲を聴いていただいた後に、拍手が起こりそのまま静かにクールダウンにもっていきました。

 

 

7.クールダウン
静かな雰囲気のまま深呼吸をしてクールダウンにもっていき、そのまま『夕焼け小焼け』を静かに歌唱。
その後はあまり話しもせず、静かに終了しました。

 

 

[記録・考察]
・アセスメント時に書かせていただいた(ずっと大声でねぇちゃん!と仰る)女性は最後まで静かに参加されました。途中でスタッフを呼び戻すこともなく歌唱されたり手遊び・合奏と全て1時間しっかりと集中されて着席されていました。

・合奏時の半身麻痺の方が手を伸ばして楽器を取るということも、スタッフ様からすると非常に新鮮な映像で「初めて」と仰っていただきました。可動領域の幅がよくわかり、そこから楽器を上げて鳴らす、というのも可動領域の幅が広がっていき、その方の機能訓練やレクのときに取り入れたい、とのことでした。

・今回で一番スタッフ様も印象に残ったのが、「全力で笑われる」というものでした。
確かに今回は笑われる姿が何度も見られました。ですがそのときに笑うときはお腹を抱えて笑われたり、大声を出して笑われたり、涙まで出されて笑われたりという姿が非常に多い印象でした。
これは今まで実施していた音楽療法の中でスタッフ様曰く一番笑われて楽しそうにされていた。とのことでした。

・回想でも、今回実施した昭和15年の時代背景は非常に集中されて発言が多かったと思えます。終了後も隣同士で「あのとき私6つ。あなたは?」とコミュニケーションを取られてさらに他の方々は「戦争始まったとき私大阪にいててね、」とも話が弾んでいました。
(クールダウン不足?)