第三十二回特別養護老人ホームすばるの音楽療法が終了しましたので、アセスメント・プログラム・記録等を報告させていただきます。
[アセスメント]
今回は施設内で感染の疑いがあるということにより、普段は2階3階の入居者様のところが、2階の入居者様とショートステイの方のみになりました。
そのため、人数が普段より約半分の20名になります。
施設内で2階の方というのは、わりと元気な方が多く、普段の音楽療法でも最前列に座っていただける方々が多く参加いただけました。
20名のうちリクライニング式の車椅子の方が2名になり、スタッフ様の補助もいただけました。
[プログラム]
1.挨拶
季節の話や、今回から冬のプログラムの実施のこと、そして軽い質疑応答を設けました。
基本的には答えていただける方が多くそこでも笑顔や笑い声が見れました。
2.準備運動
呼吸法・発声法と実施。
→今回は人数のことや元気な方が多いということもあり、発声法では「早口言葉」を実施しました。先ずは、お腹から声を出す練習として「らりるれろ」を一文字ずつはっきりと出していただき、その後「らりるれろ」が入った文章を読んでいただきました。
その文章を先ずは音読、その後早口言葉として発声していただきました。
早口言葉では途中でつまずいて笑われる方が多くいらっしゃり、ある程度口を動かしていただいたところで中断しました。
3.季節の歌
『たき火』を歌唱。その後、曲の説明、質疑応答とし様々なことを聞き出しました。
→歌唱に関しては全く問題なく、今回の人数でも十分な声量になっていました。
その後質疑応答では、
「たき火はこの辺りでは見かけますか?」と聞くと「少なくなったけど、まだ見かけますよ。」と答えていただけたり、中には隣同士で「昔は中に芋入れて…」「そうそう!」といった会話も聞こえました。
普段ではできない1名ずつ思い出を聞くこともできました。
その中で「昔はよくやっていて温まってたけど、今はやっぱり危ないよね。」と教えていただけたりといろいろな方の意見が聞けました。
4.手遊び歌
『お正月』を歌唱。同時に手遊びを実施。
手遊びの内容は、
①1→2→3→手拍子
②2(親指+人差し指)→2(チョキ)→3→手拍子
になります。
→先ず歌唱に関してはやはり問題なくできました。その後、お正月に関しての質疑応答を実施。
簡単に「来年の干支は?」ということや、
「コマの回し方は?」「羽子板は最近見る?」ということを質疑応答しました。
すると、「いのしし!」や「コマはこうやってこうやって、」と身振り手振りで教えていただけたり、「羽子板は玄関先でやって負けたら顔に墨を塗られて」と一つ一つの質問に多くの方が答えていただけました。
そして、手遊びでは参加は100%でした。
なかでも一番印象に残ったのは、リクライニング式の車椅子の方で、左が麻痺している方が、
どうしても手拍子が難しく本当ならスタッフ様の補助をいただこうとしたところ、
自ら手拍子を片手で「キツネの指」を出されて親指+中指+薬指で力強く指の音を鳴らしている姿が見れました。
本人様の意思と工夫を尊重し、スタッフ様の補助も入れずそのまま最後までしていただきました。(もちろん唄いながら)
5.合奏
今回は『冬の夜』に合わせ鈴を持ち合奏をしていただきました。
いつもの合奏と違い、いろいろな鳴らし方のパターンを歌詞に合わせ実施しました。
→はじめは、「1→2→123」次に「三三七拍子」そして「振る」という3パターンを使い分けて実施。
結果的には練習も本番もしっかりとキレイな合奏で音が揃っていました。
そして今回は音を華やかにして聴覚的にもわかりやすいように様々な音の鈴を使用しました。高い音や普通の音、もしくは響く鈴と聴いてもわかる程の違う音で実施し、セラピストからしても一人一人の音がよく伝わりました。
手遊び歌のときのリクライニング式の車椅子の方には、10個以上付いている鈴を持っていただき音をしっかりと取っていただきました。
握力の弱い方であったので、少しの揺れで反応できるようにするための配慮でもあります。
そして、合奏終了後に楽器を集める時に、どうしても鈴を離すのが嫌という方がいらっしゃり、スタッフ様が取ろうとしたところ少し怒った表情をしたため、また別のスタッフ様が代わりに音の鳴らないマラカスを渡しました。
これは以前からスタッフ様にも注意事項として話をしていたため、「もし返すのが嫌な方は代用として音の鳴らない楽器を渡してください」ということが直様対応ができて安心しました。
このことは、終了後の反省会でもスタッフ様が「レクなどのときでもいつもこの方法を使わせていただいてます。」とのことで、現場のスタッフ様には今一度再確認していただきました。
6.懐メロ
今回は先ずは歌唱前に時代背景の説明をし、十分な回想をしたところに歌唱に入りました。
「昭和11年」の出来事・流行・流行歌の説明、その後に『花言葉の唄』と『東京ラプソディ』を歌唱しました。
→はじめの昭和11年の話を模造紙にて実施。
出来事のキーワードで「大日本帝国」や「デゴイチ」、流行のキーワードでは「アルマイト弁当箱」「キューピー人形」と一つ一つ説明しました。
デゴイチという言葉を見ただけで「蒸気機関車のこと!」と教えていただけたり、他にも「アルマイト弁当箱」に関しては質問する前に「これには梅干しを入れたらダメなんですよ。」とセラピストにご教示していただけたりとコミュニケーションを取るのと同時に回想が幅広くできました。
その流れで流行歌としての一曲で
『花言葉の唄』を歌唱。模造紙を見ると中には「知らんなぁ。どんな曲?」という声もちらほらあった為、急遽アカペラで途中まで歌唱すると「あ!知ってる!」と先ほどまで悩んでいた方が一変しました。
そして歌唱し、歌唱中には自ら手で指揮をしながら唄う方もいらっしゃり、歌唱後には拍手がありました。
続いて同じ昭和11年の『東京ラプソディ』ではこれはやはり人気曲であるため、曲の説明も簡潔し早速歌唱に入りました。
これも歌唱後には拍手があり、先ほどの曲より非常に声量も上がっていました。
その後、先ほどの昭和11年の模造紙を見せて、そこに「あゝそれなのに」という流行語を見ていただきました。そこで「このあゝそれなのには曲でもありましたが、これは映画の主題歌でもありました。その映画の名前は「うちの女房にゃ…」?」と説明中に多くの方が「髭がある!」と答えました。その流れで説明を続け今回は『うちの女房にゃ髭がある』を聴いていただきました。
するとここでも曲をしっかりと思い出していただき回想もできました。曲を聴いている途中でも歌詞をよく聴き笑われる方もいらっしゃいました。
7.クールダウン
少し身体を伸ばしていただき、その後クールダウン曲の『夕焼け小焼け』を歌唱し静かに終了しました。(その後スタッフ様による誘導)
最後の歌唱後に、ある方が「「うちの女房にゃ髭がある」って私がまだ9つのときで、面白おかしくあのときは流行ってたのよ。先生が書いてた「あゝそれなのに」も思い出したわ。「空にゃ今日もアドバルーン~♪」やねー!」と笑顔で思い出をセラピストに語っていただけました。
以上、60分プログラムになります。
[記録・反省]
・今回は人数が少ないということもあり、事前に内容を少しだけ変更しました。
その中で一番が「質疑応答を多くする」というものでした。少人数制でさらには普段最前列に座っていただける方が多いということにより、普段聞けない方に個人個人で回想や質疑応答がしっかりとできました。
回想でも「アルマイト弁当箱」や「デゴイチ」という言葉でも様々な情報を引き出していただけました。
ですが、ここで私なりの反省がありました。
一つ目は、まだ名前を覚えれていない、ということ。二つ目は、回想などで写真などがあれば尚良かった、ということでした。
少人数なので、皆様の名前を覚えていれば(一部の方は覚えています。)もっと個人個人で引き出すことができたと思えました。
そして少人数なので写真などがあれば回して見ていただけたりすることで回想が更に深まりよかったのではないか?という反省でした。
これは私の宿題にもなりました。
スタッフ様と連携して少人数制なりの利点がまだまだあったかと思えます。
・リクライニング式の車椅子の方が、今回は自ら手遊びを考えたり工夫したりということは、今までの中で初めてでした。
終了後のスタッフ様との反省会でも「利用者様があんなに笑顔でされていたのは、家族様も喜ばれます。」とおっしゃっていただきました。
・ある女性が手遊びまでしっかりと笑いながらも参加をされていましたが、そこから急に合奏に入ると静かになられました。
参加こそしっかりとしていただけたのですが、急に足を組み見ているだけ、ぼーっとしてしまう姿がありました。
何か異変があったのかと少しスタッフ様とも心配をしましたが、
懐メロの『花言葉の唄』になると、急に熱唱されました。これにはスタッフ様もセラピストもびっくりし、普段より声量が倍ほど違い、顔を真っ赤にされながら利用者様の中で一番歌唱されていました。
おそらく思い入れのある曲なのか、もしくは回想されて刺激したのか、あまり詳しくは知れなかったのですが、終了後の誘導時には「懐かしかったわぁ。」と力強く握手をしていただきました。
・今回はスタッフ様からの意見で、
「少人数制の音楽療法だったため、一人一人のご利用者様の様子がよく見れ、身体を動かしにくい利用者様のケアにも入ることができ、その方々以外にも鈴を鳴らす、指を折る、などが積極的であった」とのことでした。